タイトルはわかり易く、ボートレースの図。アルジャントゥイユは場所の名前。パリの北西。印象派の画家の多くがこの地をよく描いている。水辺の風景の一場面をさり気なく見つめ描いたように感じるこの作品はとても深い造詣が潜んでいる。画家の探究と経験がなせる構成と色彩のバランスである。画面左側の船のマストの形に注目してもらいたい。それぞれのマストの大きさを変えることでリズムと距離を感じさせている。そして画面中央のマストの高さを一番高くし、徐々に左に行くほど頂点をさげていくことで中心のマストに視線を集めることが出来る。左端のマストはこの作品の中で二番目の高さにしてある。視線が左に流れて終わらず止めるためである。そしてまた視線を中心に戻す役目もかっている。更にこの左端のマストの高さは画面右側の家の屋根の頂点と等しくなるようにしてある。その家と木々の色の扱いは補色の関係で成り立たせてあり、その色彩のバランス配分はギリギリと言っていいだろう。どちらかの色が多く占めてしまうとまとまりに欠けた印象となりこの作品は成立しないと思われる。このギリギリと言うバランスが作品に緊張感を与えている。水面の表現はタッチの多様な筆触と強さによるもの。その時間と静かな刻の流れを画面に閉込めた作品である。